「なぁ、なまえ、本当にいいの?いや、俺は願ったり叶ったりなんだけどさぁ」
「いいのよ」





今日はクリスマスイブだ。本当なら恋人である天元の家でゆっくり過ごすはずだった。
しかし、行ってみたらどうだろう。
ヤツは友人である不死川君や冨岡君たちを家に連れ込み、既に飲んだくれていた上に眠っていたのだ。
友人を連れてきて一緒に、は最悪良しとする。しかし、彼女が来る前に酔っぱらって寝て、私が来たことにすら気付かないなんてこと、有り得るだろうか。いや有り得ない。
3年も付き合っていれば多少のマンネリはあるだろう。でもここまで酷いものか。
これにはもうブチ切れてしまい、そのまま何も言わずに家に引き返してきたのだ。








帰ると、家では弟の善逸がちょうどチキンにかじりついていて、どうしたの?と聞くので、起こったことを全部話してやった。

「マジ?まぁ俺としては姉ちゃんと過ごせてラッキーだけど」

なんて言ってくれたので、力いっぱい抱きしめてやった。
弟は若干シスコン気味ではあるが、慕われるのは嬉しいので、ついつい甘やかしてしまう。本当にかわいい弟を持って幸せだ。












まぁ。そして冒頭の会話に戻るわけだ。

「あんなヤツ、飲みすぎて肝臓やられて病院送りにでもなればいいのよ」
「っていうかさぁ。さっきから電話鳴りまくりだけど」
「無視よ無視。もう電源落としてやろ」
「うっわ、ひど」

ひどくて結構。速攻で電源を落とした。直後、

ピンポーン


家のインターフォンが鳴った。





「え、アイツもしかして家まで来たんじゃないの?」

そう言って善逸がモニターを確認しに行くと、うわマジだわ、と呟いた。

「どうするなまえ?俺出ようか?」
「・・・ううん、私出るよ」

重い腰を上げて玄関に向かう。善逸も付いてきた。
ドアを開けると、ひんやりとした空気が頬を撫でると同時に、天元の顔が目に入った。

「なまえ!お前何スマホの電源切ってんだよ!」



開口一番がこれなのか、この男は。イラっと頭に血が上っているはずなのに、なんだかひどく冷静だった。
すると、そんな私の空気を読んだらしい善逸が私の前に立って、天元を睨みつけた。


「アンタさぁ、どの面下げて来てるわけ?」

善逸はどうやらお怒りモードらしい。元々、天元とは馬が合わなくて口喧嘩も多かったけど、今日は一段とお怒りだ。
さすがの天元も自分が悪いとは思っているらしく、ぐうの音も出ない。

「誰のせいでなまえが嫌な気持ちになってると思ってるわけ?アンタだよね。3年も付き合ってたら彼女の扱いってこんな雑になるもんなの?最低じゃん」
「おまっ!人が黙ってれば好き勝手に・・・!」

おー、我が弟ながら、いつも以上に口が達者ですな。ただ、善逸が怒ってくれているおかげで、頭に上った血も落ち着いてきた。
そろそろ天元も可哀そうになってきたので、バンバンと悪態を付いている善逸を一旦制した。
善逸はまだ言い足りないとばかりに不満そうな顔だが、まぁここは引いてもらおう。


「なまえ・・・」
「私も別にさ、付き合いたてみたいなロマンチックなクリスマスとか期待してるわけじゃないんだけど」
「ああ」
「さすがにさ、傷付いたわ、私も」
「・・・悪かった」
「本当に反省してる?」
「してる」

私の目をまっすぐ見て言う。天元はいい加減な男ではない。それは私も付き合いが長いから知っている。心底反省しているだろう。
このやり取りを長く続けていてもメリットはない。なら、もうこの辺りで手を打った方が良さそうだ。善逸にボロクソに言われてたし。



「分かった、許す。この件はこれで終わりね」
「なまえ・・・ありがとな、お前、本当にいい女だわ」
「今更そんなこと言っても、天元の株が上がるとかそういうのはないから。っていうか抱き付いてこないでよね、弟の前だっての」

天元の手が伸びてきそうだったので、とりあえず牽制しておく。

「許したけど、今年のクリスマスは善逸と過ごすって決めたから。あんたは不死川君たちと男同士、楽しく過ごしなよ」
「・・・は?なんでそうなるんだよ?」
「当たり前でしょ?そんなことよく言えるわね。じゃ、そういうことだから。良いクリスマスをー!」
「あ、おまっ、ちょ」



バタン

ドアを閉めると目の前で善逸が、おっかねー、と笑っていた。
部屋に戻りながら、スマホの電源を入れて、天元に「年末は一緒に過ごせるからね」とだけフォローしておいた。













「アイツんとこ戻るかと思った」

仕切り直しと、グラスにお酒を注ぎながら善逸が言った。

「そんなわけないでしょ。そんな簡単な女じゃないわよ。ちょっとはお灸据えとかないとね」
「たしかに」
「さすがに、別れてやる!までは勢いでも言えなかったなぁ。ま、惚れた弱みってやつよね」


3年も付き合っていれば色々あるし、実際あった。でもなんだかんだ上手くやってきたし、これからもそうなんだろうな、と注がれたお酒を眺めながら思った。

「アンタも嬉しいでしょ、お姉ちゃんとクリスマス過ごせて」
「否定はしないよ」

そう言うと、思わずお互いに吹き出して笑った。
今年はちょっと一悶着あったクリスマスだったけど、まぁ良しとしよう。


そうして、善逸とグラスをカチン、と合わせた。









Merry Christmas!!